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澄んだ青が消えた。遠くからこだます雷鳴と、ノイズのような五月蠅い雨音。白く濁った景色を見つめて、俺は部室前に立ち尽くした。
最悪だ。
今日に限って傘を持ってきていない。だって天気予報で言っていたじゃないか。今日は一日中快晴の天気だって。
それなのに、今目の前では滝のような雨が降っている。片付けなど引き受けずにさっさと帰っていれば、今頃は家でくつろげていただろうに。
俺は部室の戸に背を預けてしゃがみこむ。劈く雨音が、惨めに座り込む俺を嘲笑しているような気がした。
雨は嫌いだ。
特に、今日のような土砂降りの雨は。
嫌でもあの日が思い出される。棺の中で眠る母。咽るほど香る線香のにおい。どこの誰とも知れないすすり泣きの声。頭の奥まで響くお経。
そして、雨の音。
この年になっても、雨の音にはどうも感傷的になってしまう。情けない、と自嘲気味に笑うしかなかった。底の見えない穴に落ちてしまいそうだ。いつもの俺が、どこか暗闇へと吸い込まれていく。
あぁ、どうか。あの時みたいに俺を助けてくれよ。俺はまた、あの眩い世界が見たい。どん底に落ちた自分を一瞬で明るい世界に連れ去ってくれたあの子に会わせてくれよ。
そう願えば、あの少女は現れるのか。俺が強く願えば、あの日の青空をもう一度拝むことが出来るだろうか。
どうか、もう一度。叶えてくれよ。
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