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――ぱしゃり。
水溜まりが音を立てた。小さなその音は、五月蠅い雨音の中で鮮明に響き渡った。俺の目の前だけ、雨が止んでいる。蹲る俺の前に、誰かが立っている。
あの日と同じじゃないか。
微かな期待を胸に、俺は顔を上げた。
「零……」
掠れた声が水溜まりに落ちた。
そこに立っていたのは、青色の傘を携えた零だった。どこか泣きそうな表情で唇を噛み、大きな瞳を潤ませている。彼女の長い髪の先はじっとりと濡れ、ここに来るまでに長いこと歩き回っていたのだと理解できた。
「……青空、見たい?」
鈴を転がすような声だった。
――嘘だ。
俺は瞠目した。だってその言葉は、あの少女が言ったことと一言一句同じだったからだ。
……まさか、零が?
いや、そんなはずはない。だってもし零が探している少女であるなら、あの時と年齢が全く変わっていないことになる。だから、同じ人なんかじゃない。
そう思いたいのに、俺の目は零に釘付けだった。
「願って。あなたの願いが、私の全てなの」
彼女は震えた声で言った。
願えば、あの青空が見られるのだろうか。
もう一度、あの煌めきが見られるのか。
なら迷う必要はない。この憎い雨を奪い去り、俺にもう一度夢を見せてくれ。
「……見たい。あの日と同じ青空が見たい……ッ!」
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