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瞬間、傘に青空が咲いた。
視界一杯に広がる眩しい光に目を瞑る。そして再び目を開いた時、涙を拭った空がそこにはあった。
深海で生まれた宝石のようだった。彼女の背後で架かる虹は、次第に消えていく雲と混ざり合って七色の光をぼんやりと描いていた。
約十年。探し求めていたあの輝きに、目の奥が熱くなる。無意識に零れた雫は、きっと雨粒なんかじゃない。
「……零、やっぱりあの時の」
「思い出してくれたのね。やっと、私が探していた人に会えた……っ」
零は声を震わせて微笑する。目線を合わせるようにしゃがみ、彼女は半透明の青空を映した傘を見せてきた。傘の内側では、青空と雨天の空が交互に映り込んでいる。
現実離れしたその傘の様子に目を丸くする。驚きが伝わったのか、彼女はしたり顔で言った。
「これはね、魔法の傘なの。人の強い願いを魔力として、天候を変えるアイテムなのよ」
「は……?魔法の傘……?」
「えぇ、そうよ。魔女、といえば察しはつくかしら?」
魔女。
お伽噺の世界でしか聞いたことがない。要するに彼女は自分を魔女とでも言いたいのだろう。普段の俺ならば絶対に信じないが、その傘を見せられては信じざるを得ない。
「私は魔女の端くれ。こんな魔法しか使えないのよ。どう?笑えるでしょ?」
長い睫毛を揺らし、零は苦笑した。
「……いや、素敵な魔法だろ。青空、とても綺麗だ。俺はずっと、この空の煌めきを探していたんだ」
そう言えば、零はあの日と同じように嬉しそうに笑む。その笑みに鼓動が跳ねる。
あぁ、やっと気づいた。
俺はたぶん、青空と共に彼女の笑顔も探していたのだと思う。その笑顔を見るだけで、こんなにも胸が高鳴るのは、きっと――……
「俺、もしかしたら零の笑顔ももう一度見たかったのかもしれない。本当に忘れられなかったのは、あの日の空の煌めきじゃなくて、お前自身だったのかもな」
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