4人が本棚に入れています
本棚に追加
ぽんっ。
そんな音と共に、俺の目の前で桜が咲いた。青色の傘は桃色に変化し、大量の桜を降らせている。
その桃色が移ったみたいに、零の頬は染まっていた。
「ははっ、感情で色も変わるんだなその傘」
「……晴夜くんが恥ずかしいこと言うからよ」
零は傘で顔を隠す。桃色になった傘からは、桜の花弁が次から次へと溢れ出てくる。それが彼女の感情を表しているのだと理解してしまったからか、俺の頬もどうしようもなく熱を帯びてくすぐったい気持ちになった。
「零は綺麗だ。あの青空よりも虹よりも綺麗だ。……一目惚れだったって言ったら、怒るか?」
消え入りそうな声で訊ねれば、零は顔を隠したままふるふると首を振った。
「……私、人間じゃないし綺麗でもないわ」
青空の中で舞う桜の中で、零は真っ赤な顔で呟いた。
「綺麗だって言ってるだろ。零も、零がかけてくれた魔法も」
傘を握る手に触れて真剣に目を見つめる。泣きそうな瞳と目が合えば、傘はまだ雨が少し落ちる青空の中に小さな虹を咲かせた。
ほら、なんて素敵な青空なんだろう。
魔法にかけられた俺は、こんな雨の日なら悪くないなと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!