序章

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 真っ暗闇の中を明かりにも頼らず、さっそうと歩く男三人。 その姿は、まるでモデルがさっそうと長いランを歩いているように見える。 明かりがついた、車のドアが開いたためについた明かりは、人が乗り込みドアを閉めるとすぐに暗闇となった。 外を歩く人々は、携帯電話の明かりを頼りに右往左往。 三人の存在なんか気にしちゃいなかった。  車はブーンと加速した音を立て、中にいる三人の男たちがかわるがわる話している。 「でも、俺たちに何ができる?」 「今のまんまでいいや」 一番年の若い男は、運転席の後ろの席で、足を組み、座席の後ろのポケットから飴を出すと口に入れた。 「俺たちも見て見ぬふりはお手の物だしな、すぐに死ぬわけじゃないから、今を楽しめばいいさ、そうだろ?兄貴」 運転をしている男も、後ろにくれというと、身を乗り出してきた方に口だけ向けると、その口の中にコロンと飴玉が入ってきた。 助手席に座る年長者にいる?と聞くと手を上げた、そのままドスンと後ろの座席に身を投げ込んだ。 「今か・・・そうかもな」 運転している男は、停電して動かない信号機に引っかからないように、渋滞した道を迂回するように走っている。  人間はおろかな生き物だ、だから、変わった力を持ったものに、恐れを感じ、排除しようとする有為転変など望みもしない。  それなのに、天変地異が起きたときや、自分の身に何か不幸が訪れると、神仏、はたまた、虫や物にさえ願いを聞き入れてもらおうとするのはこの国だけだ。滑稽に見えるが、それをそうだと思わないのがこの国の不思議な所かもしれない。 そんな中、神も仏もいないのかと思った時現れるのが救世主だ。 歴史上の人物としてあげられる者たちの多くはよそ者だ、崇め奉られ、その時は担ぎあげられる、だがひとたび、それを恐怖と感じてしまうものがたった一人でも現れれば、まるで、魔女狩りのように追い詰め、殺害し家族、親戚までも追い込む。異能力者と冷たくあしらわれる、この島国根性もまた嬉々としてわかっていない国民たち。 でもこんなしょうもない国でも一生懸命生きている人たちがいる。 その足を引っ張る事だけはしてほしくないものだ。 それを美徳として掲げてきた国なのだから。  この国に残された、最後の、意地?違うな、なんと表現したらいいだろう。それすらもいじめや、虐待、殺人で覆い隠され、この世から抹殺される。 人の不幸の方が楽しいから、それもまた愚か者だとも気が付いている人は、口をふさぎ、正義を正義とも叫ぶことすらできずに、ただ死んでいくだけをテレビで見て、可愛そうという。 まあいくら偉そうに言ったところで、自分もその一人なのだという自覚すら持てずに、ここまで来たのだから。 「わがまま、傲慢(ごうまん)、無知ですか?」 「それすらわかってねえだろ?」 「そうだよね?」 「さて、早く、探しださなくては」 「難しい事は兄ちゃん達に任せるよ」 「お前も少し勉強しろよな」 「勉強?もういいよ」 男たちの笑い声が車の中に広がっていた。  昔、昔、この国には神の力を持った者たちがいた。 俵屋宗達の至高の代表作、国宝『風神雷神図屏風』  国宝、風神雷神の屏風(びょうぶ)に書かれた神(かみ)は、実在したからこそ、書き残されたとされている。 名前や地域にその名がついている物達の先祖はもしかしたら、神の子孫たちかもしれない。  そして現代(げんだい)。 その能力を生まれ持ったがために、運命に翻弄され、それでも生き抜こうとしている物たちがいた。これは、その力を持った兄弟、一族たちの物語である。
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