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第一章 放電 第一話 光る化け物?
十一月十一日、AM7:00
その日は朝から嫌な予感がしていた。
ごみをもってアパートの階段を降りると、俺の方を見ているおばさんたち。
こそこそ話すんだけど、案外はっきり聞き取れる。
「なんか物騒よね?」
「また出たんでしょ、光る人」
「娘に早く帰るように言ってるんだけどね」
「ほら、なんせ」
「そう、そう」
俺はその場をそそくさとすり抜けた。
俺の事だ、ここもそろそろ潮時だな。
とにかく今日は仕事、バイトは休みをもらってある、なんたって、久しぶりにあの人に会えるんだ。
別にさっきの人たちは名指しで言っているわけではない、わかっている、でも、長居はできない。見つかった時にどんなことになるか…わかっているから。
現実はそんな甘いもんじゃない。
わかっている。
でもわかりたくなかった。
部屋に戻ると窓を閉め、冷蔵庫に何にもない買い物をしなくちゃな。ぱたんと閉め、出かける用意をする。
八畳一間、二畳の小さなキッチン風呂とトイレは別。
ドアノブには、ちぎれてぶら下がったゴム手袋が巻き付いている。
小さい頃の思い出が頭をよぎる。
「化け物!」
こぎれいな恰好、靴も磨いてある。カバンを持ち、辺りを見回す。
カギに触れないようにキーホルダーの皮の部分を持った。
「行ってきます」
玄関先にある写真盾に声をかけた。
AM7:25
部屋を出た。
まだ話している女たち。
大きな身長、猫背で人の波に隠れる、そして長い髪で、顔を隠し、マスクでもっと見えないようにした。
小さな役は、通行人なんかじゃない、やくざの後ろにいる役だ。
AM10:00
長い髪を一つにまとめ、主役の人が来るのを待っていた。
殴られるだけの役だがセリフもある。なめんなよ、芸歴はあんたより長いんだ。
「カーット!ご苦労さん、そのまま行く、君と、君、残って」
やった!
PM2:00
「はい今日の分ね、ありがとう」
「やった、取っ払い、ありがとうございます」
「また、頼むね」
「はい」
修司!
その声に振り返った、今もらったものをカバンの奥に入れる。
「よかったな、また使ってくれるって?」
「はい、明日また来ます」
「明日か―」
「どうかしたんですか?」
いい話があるんだ。
ホテルに終わったら行かないかと言われた、断る理由がない。
事務所へ一度行けと言われ、七時に新宿のホテルで待ち合わせることにした。
PM3:00
薄暗い階段を上っていく。
社外に、しゃがみこんで上目遣いの人、なんだ?こいつら?
「おはようございます」
「おー修司、どうだった?」
「ダメでした」
「そうか」
「あのー、この間の」
「おーわりーな、また撮影なんだ、グラビアなんだけどよ」
「すみません、七時に予定が入っていて」
「そうか、それまでならいいよな」
「ええ、まあ」
「よし、荷物それだけか?」
「はい」
「下に黒い車があるから乗って待ってろ」
黒い車?会社のは白いボックスカーなのに。
廊下に出ると、さっきの男たちがいない。
まあいいか、下に行くと黒いごつい車があった。
これかな?
すると後ろのドアが開き、むんずとコートを引っ張られ車に乗せられた。口を何かで覆われた。
なんだこれ!
次には、体の力が出なくて、なんだか呼吸が荒いような気がして‥‥ダメだ、気を失う。
目の前が真っ暗になった。
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