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そして、いよいよ金曜日。同期の企画部の中条あやねのお出ましだ。
「ほら、早く食べろ。冷めないうちに。」
お弁当箱を持ち上げると、熱かった。給湯室に電子レンジは置いてないはず。不思議に思っている僕に、種明かしをしてくれる。
「発熱反応だよ。化学の授業で習わなかったか。お弁当箱の側面に紐が付いているだろう。それを引っ張ると中の生石灰が水と反応し、発熱し、温められた水蒸気でお弁当箱が温かくなるんだよ。」
帰国女子で一流の国立大学卒業の噂は本当だと思った。
肝心のお弁当の中身はというと、予想したのと違っていたって普通だった。
白いご飯の真ん中に梅干し、厚焼き玉子、サバの味噌煮、肉じゃが、ホウレン草のおひたし、そしてアルミ箔で隔離された謎の白い物体が入っていた。
「タピオカだよ。食べたことないのか。ダサいな。」
「うるさい。」
僕は、タピオカは最後の楽しみに置いといて、他のオカズに食らいつく。
やっぱり、そうだ。食べる前からわかっていた。美味しいんだ。普通でありながら、素材をよく吟味しているし、味付けは最高だ。コンビニ弁当でもこれだけのものはない。思わず、顔がニンマリするではないか。
中条あやねのドヤ顔が悔しいけど、仕方ない。
そして、タピオカなるもの、もちもちした食感でほんのり甘い。
「へえ~、初めて食べた。美味しいけど、これって、何の実だ。」
「そんなことも知らないのか。これは、キャッサバという芋が原料だ。」
「これが、芋。信じられない。」
驚く僕を見て、中条あやねは、意地悪く笑う。
「それだけではない。キャッサバには有毒なシアン化合物が含まれている。」
「ウゲエッ。」
僕は、ビックリ仰天、慌てる。
「話は最後まで聞け。きちんと毒抜きされて日本に輸出される。」
「何だ、最初からそう言えよ。」
「おまえが、悪いんだろう。」
「何を。」
にらみ合おう二人だったけど、どちらもたまらず、吹き出す。やっぱ、同期は気心が知れてていい。遠慮しなくてもいいから、楽だ。
それから、暫く、新入社員としての愚痴なんかを語り合った。
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