新入社員の僕なんだけど

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新入社員の僕なんだけど

 新入社員の僕なんだけど、どうもおかしい。今年のうちの会社の新入社員は僕の他に二人いる。地味で真面目だけが取り柄の僕は総務部なんだけど、イケメンでスポーツ万能でやる気に満ちている営業部の中島健太郎、美人でスタイル抜群の帰国子女と噂される企画部の中条あやね。この二人がモテモテなら、何の問題はない。どこの会社でもあるあるで、至極、当たり前のことだよね。  週末、金曜日の歓迎会で可もなく不可もなく無難に過ごし、二次会も一応誘われるままカラオケに参加し歌うこともなかった僕なのに、次の週の月曜日からモテる。独身、既婚を問わず、他の部署の女子社員からも争うようにお誘いがかかるんだ。 「お昼、一緒にどうかしら。」 「お弁当作ってきたんだけど、良かったら食べてくれませんか。」 「初めて会った時から、君のことが気になっていました。」などなど。  うちの会社は業界ではそこそこ名の売れているが、社員食堂もない中小企業だ。会社の屋上で一人寂しくコンビニのノリ弁を食べようとしている僕には、信じられないお誘いだ。  ちなみに、僕は大学時代からコンビニ弁当をよく買う。特にノリ弁が大好物だ。コンビニによって、おかずの種類も味付けも違うから面白いんだよ。  さて、夕ご飯の余りものなんだけどと差し出された弁当に、サーロインステーキが入っていたときには、眼を疑った。 「僕を太らせてどうするつもり。」  心の中でつぶやきながらも、僕は差し出された弁当をすべてたいらげる。 「すごーい。」 「嬉しいわ。」 「男前。」  女子社員たちの黄色い歓声に酔っちゃいそうだ。生きてて良かった。  その日も、仕事が終わり、定時に帰ろうとする僕を待ち構えたかのように、 お誘いがかかる。 「今度新しくできたイタリアンのお店があるんだけど。」 「東京スカイツリーの水族館を一緒に見にいきませんか。」 「一流ホテルのレストランのデイナーショーのチケットが2枚あるんです。」 「新しい水着を買いたいんだけど、一緒に選んでくれませんか。」 「部屋の模様替えを手伝ってくれませんか。」などなど。  あまりに恐ろしくなった僕は、一言も発することができず、汚いオンボロアパートに逃げ帰った。    
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