人生、やはり甘くない

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人生、やはり甘くない

 うちの会社は土曜日も出勤しなければならない。それも、5時定時までだ。  その日の昼食はコンビニ弁当のスタミナ丼を独り寂しく屋上で食べていると、珍しいことに同期の営業部の中島健太郎がやってきた。 「一緒にいいかい。」 「別にいいけど。」  中島健太郎は、どこかで買ってきたらしい有名店のサンドイッチを、僕と肩を並べて黙々と食べる。 「一つ、聞いていいか。」  僕は疑問の一つを投げかけた。 「何だ。」 「おまえ、僕をおとしたら付き合ってやるとか、女子社員に約束なんかしなかったか。」 「そんなことしないよ。めんどくさい。」 「そうだよな。」  聞くだけ無駄だったよな。イケメンでスポーツ万能でやる気に満ちている営業部のホープ、中島健太郎だもんな。僕は、大きなため息をつく。そんな僕を見かねて、中島健太郎は思い切ったように口を切った。 「おまえの胸の疑問に答えることは会社全体で禁じられている。しかし、同期のよしみで教えてやる。おまえが一番美味しいと思った弁当を選べ。もう一度、食べたいと思う弁当を選べ。いいな、頑張れよ。」  こいつ、こんなに熱く語るキャラだったのかと、不思議に思ったんだけど、 やっぱ同期で僕のことを気にかけてくれていたのかと思うと、嬉しい。  中島健太郎は男の僕でも胸キュンとなりそうな爽やかな笑顔を残して、去って行った。かっこよすぎる。  
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