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「お兄さん」
私は驚いて立ち上がった。周囲をキョロキョロと見回すが人の影はない。気のせいだと決めつけて座り込むと目の前にいつの間にか少女が立っていた。本を差し出すと表情を不気味に歪めた。私が急いでその本を袋に詰め渡すと少女はぽかんと私の顔を見ていた。
「何かな」
私は出来るだけ不気味な表情を注視しない様に気をつけながら声をかけた。すると少女はしばらくシゲシゲと私の事を伺っていたが、意を決したような表情をした。
「どこかで会ったことありませんか」
「は?」
私がキョトンとしていると少女は本を持ってそのまま入り口に歩いていった。そして入り口で一度振り返り。
「今は思い出せないけど、多分いつか思い出せると思います」
そう言うとお辞儀をして去っていった。方角は大人たちと同じ様に東から西へ。少女が何を考えそんな事を言ったのかそれは分からない。私は遅ればせながら入り口に向かうが、道の向こう側で少女の姿を認めることは出来なかった。焦燥感が募る。
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