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「ボンヤリしているね」
「いえ……」
そう言って少し思い直す。そう言えば少し気になっていたことが有る。少しというか大量にあるのだが。
「タカナシさんって人間にはなりませんよね」
そう問いかけるとタカナシさんは翼を広げかけて止まる。そして毛繕いをしてみたりした。タカナシさんが人間になるところを私は見たことがない。千変万化と思っていたがそんな事は無いんだろうか。
「そうだね、あまりなることは無いかもね」
長い毛繕いの後そう答えた。人間になるとはどういうことなのだろうか。位相の異なる記憶と思考をもったモノに突然成った時。動物はどうなってしまうのだろうか。少し気になった。記憶と思考?その時視界の端にあの一対の鴉を思い出す。例えば彼らはどちらが先に生まれたのだろうか? どちらがいるから生きていけるのだろうか。なんてくだらない事かもしれない。
手元の時計が19時を告げる。定時だ。今日はあまり仕事をしていない。もとより趣味が講じてやっていることだからノルマなんて無いんだが些か申し訳ない。
「サクマくん時間だよ。上がりな」
「はい」
私はいそいそと着替える。最近日が短くなってきている気がする。辺りが暗くなるのがやけに速いような気がする。
「サクマくん。時間があったら考えて欲しい」
「何をです?」
「今のままここを続けるのか。旅立つのか」
「もしかしてそれは……」
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