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「なぜ、あのようなお話をしたのですかタカナシさん」
と後ろから声がする。暗くなった店内の何処に潜んでいたのか。その影はいきり立つように拳を強く握っていた。ただ、何故と問われるとそれは分からない。店内の空気がそれを攻めるでもなく。諌めるでもなくただ見守った。積まれた本は静かにいつもと変わらない様子を保っている。変わったのはタカナシさん自身なのかもしれない。
「高菜さんもいらっしゃってたんですね」
「答えて下さい」
「……」
タカナシさんは答えに窮する。実のところ良く分からないというのが感想だ。彼と人形の話をした時、以前にも似たような話をしたことを思い出したのだ。何と無くそれがしこりと成って次第に心の中で大きな不安になった。店の奥に入りログを確認してみたが、それらしい供述もなくそれはいつ起こったことなのか思い出せない。もしかして夢の出来事なのかもしれない。だとするとこれは修理が必要だ。
「私達の考えもしないことが起こるかもしれない、そう考えまして」
「考えもしないこと?」
高菜は鼻で笑うようにしてタカナシの言に応える。あまりに意見が合わない二人に何を考えたのか本たちがざわめいた。光がチラチラと揺れた。
「そんな事はあり得ない。どうやっても彼はあちらに行くしか無い」
高菜は西を指し示す。此処ではない、彼方に行くしか無い。そう言った。無論そのとおりだ。時間が収束するように、世界が進み続けるように進むべき方に転がるしか無い。そのはずだ。だからそれは気の所為なのかも知れない。次第に彼の中にある焦燥感は大きくなるだろう。それに身を任せるように彼はあちらに向かうのだろう。
「彼は進むしか無い」
タカナシさんは思い出すようにそれを繰り返す。不安を振り払うために。
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