AM7時のタカナシさん

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「いらっしゃいませー」 「いらっしゃいませー」  同僚のタカナシさんの声に続いて声を出す。店内に入ってすぐにコミックの新刊が積んである。大抵のお客はそこで足を止める。一通り検分すると反時計回りに店を歩き出す。この店は縦長の楕円形を模しているが、その円の中心に新刊台がある。右側面に雑誌がずらりと並び。北を――店の最奥を――12時とした場合。3時から5時の方角にはビジネス書が置いてある。ビジネスマンの読み物かと思いきや、昨今はバリバリのキャリアウーマンがページを繰る様がよく見られる。少し進んで1時2時の方角に有るものは文庫だ。映画化したものを放っておくと人が群がる。そんなに観たきゃ映画館へ行けばいいのに、なんて思わなくもない。11時の方角にはライトノベルが軍隊のソルジャーのような。よく似た装いで鎮座している。軍隊のようにというのはうまい表現で、一冊返本するのは忍びない。全巻並べるか。全巻抜くか。彼らは隊列を組んで行動する習性を持っている。9時から8時。つまり7時以外の残りはコミックだ。少年青年少女。おまけにBLレディコミがずらりと並んでいる。最も盗られやすく、だがうちの売上の大半がココに集中している。雑誌か書籍かと哲学じみた論争の火種になるのは、凡そココの分野である。出来ることなら読むだけにしたいものだ。そして余った七時の方角にはタカナシさんが座している。  それがこの書店がタカナシ書店である所以だと言われている。
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