AM7時のタカナシさん

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「今度は猫ですかタカナシさん」 「少し不思議な猫だよ。サクマくん」  私は数秒程思案するが、首を傾げた。とにかくタカナシさんは今日は一日猫なのだと結論付けることにした。タカナシさんは私の同僚のようなモノである。タカナシさんが小鳥遊さんなのか、はたまた高梨さんなのか。大穴を狙って鷹無さんなのか。それは未だ謎であるが、私としては高無辺りが近いのではないかと無意識に思っている。代々引き継ぐ名字に三文字も使うというのはそもそもリソースの無駄だし、子孫に申し訳がない。かと言ってタカナシさんは鷹と言う程猛禽っぽさを感じない。ぼんやりとした遊牧的な口調には似つかわしくない。一度本人に聞いてみたことがある。すると 「タカナシの書き方?書き方って言われても」  と少し困惑した表情をしながらメモ用紙とペンを器用に握る(そのときは足の生えた蛇だった)。そして「TAKANASHI」と書いたのだった。私が日本語でと言うが、日本語でも一緒だよ。とそのまま誤魔化されてしまった。その件から私はタカナシさんの名前でさえ聞けずにいる。今ではなんとなく聞きにくくなってしまった。  私が最初にこの書店にやってきた時タカナシさんは歪な台形のような形をしていた。私は書店に来たことがなかったので、書店には謎の台形の装置が有ると思っていた。しかしどうやらそんなことはないらしい。一週間ぐらいしてその台形が二足歩行で歩き出したときには随分驚いたものだ。その上喋りだしたのだ。驚くどころの騒ぎではない。困った挙げ句コミュニケーションは取れるようだから、私は先輩として尊敬の念を込めてタカナシさんと呼んでいる。  これが私の知るタカナシさんの全容だ。詳しく言うとサイキックだかテクノロジックだかの話になるらしいが、詳しくは理解していないのだから言いようもない。脳神経と視神経のオートチューニング、その結果らしい。暖かな日差しに向かって背筋を伸ばす、そのまま欠伸をするタカナシさんが実際に欠伸をしているかどうか。それは論ずるのも馬鹿らしくなる。
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