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いくつか並ぶ店の中で、品の良い洋服が飾られたセレクトショップへ足を踏み入れた。
花柄のワンピースを手にして、小夜が体に合わせる。
「ちょっとお嬢様みたいじゃない?」
華やかなイエローだからか、太陽に照らされた向日葵のように映る。透明感のある肌に映えて、キレイだ。
「ちゃんと値札見てますか?」
一瞬でも見惚れた自分が恥ずかしくなって、冷静を装った。
「一万六千円だって。こんな高い服買ったことないなぁ」
「僕が払うんだから、高校生なの頭に入れておいて下さいよ」
「着てみたかっただけよ」
ベッと舌を出す仕草は、無邪気な少女みたいだ。
時折、小夜はあどけない表情を見せる。大人の振る舞いを忘れた子どもみたいで、あまり年の差を感じない。
小夜はグレーのニットワンピースと、そばにあったレースの手袋を手に取って。
「ほとんどパンツだったから、ワンピースって憧れてたんだよね」
試着室の姿見の前に立ち、体の角度を変える小夜の表情は、どこか寂しそうに見える。
どんなに食いるように見ても、鏡の向こうに自分の姿はないからだろう。
結局、小夜は何も買うことなく、トイレへ行きたいからと先に店を出た。
後から外へ行くと、小夜が俯いていた顔を上げて、「次、どこ行く?」と笑う。
その頬には、雫の通った跡が残っていた。
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