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「素敵なケーキだから残しておきたいの」
「僕のスマホに残して、意味あります?」
「今の私には財布もスマホもないんだから、仕方ないでしょ。それにもしかしたら、これがきっかけで成仏するかも」
上手く乗せられた気がしないでもないが、言われるがままにカメラをかざした。
画面の向こう側には笑みを浮かべる小夜がいるのに、僕の映す世界に彼女はいない。
写メを見たいと、僕の手からスマホを奪った彼女は、やっぱりねと言うように眉を下げた。
写真には姿が写るのか、確かめたかったのだろう。
落ちていく視線をケーキへ向けて、真ん中にふわっとフォークを入れる。生クリームと層になったスポンジが現れると、小夜は何か物思いにふけるように黙ってしまった。
そして、憂いを吐くような小さな溜息をひとつ。
「この世界って、実はいくつもの次元によって成り立ってるのかもね。あれと同じ、イラスト描く時のレイヤー?」
「なんですか、そのレイヤーって」
「分かりやすく言うなら……このジップロックにイラストが付いてるでしょ? パッと見は表側だけに絵が描かれているように見えるけど、実際は……」
透明のジップロックを左右にずらして見せて。
「ほら、こうしてみると裏の内側にも絵があって、それが重なって1つの絵に見えてたの」
僕らがひとつだと思っているこの世界は何層にもなっていて、普段は交わることのない並行世界にある。
稀に何かの波長で重なって見える人間がいるらしい。それが、僕と言うわけだ。
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