75人が本棚に入れています
本棚に追加
中学一年、二人乗り
向かい側から歩いてくるクラスの女子と、すれ違いざま流れる視線が絡み合う。互いにすぐ目を逸らすけど、その瞬間が、僕にはスローモーションに見えた。
青とグレーのグラデーションが冷たい空気を作る放課後。バスケ部の練習へ向かうため、僕は体育館通路を渡っていた。
「可愛いよな、月城。幽霊部ってさ、部室とかあんのか?」
僕が唯一、中学で話をする響木が、振り返りながら口を開ける。
「……天文部な。どっか空いてる教室使ってんだろ」
「こんな時間に星なんか見れんやろし、普段何しとるんやろな」
さあなと興味がない素振りで、僕は真正面を向いたまま返事をした。
月城サヤは、成績も良く容姿も端麗なため、校内で一際目立っている。
風の噂では、最近芸能事務所に所属したらしい。そんな話さえ納得出来てしまうほど、彼女は特別視されていた。
「ユーレイ部ってさ、確か五人くらいしかいないんやなかった?」
「そうそう。それで女子はあの子一人らしいやん」
「わたし絶対無理ー! よっぽどの男好きしか入らんよねぇ。ちょっと可愛いからって、調子乗ってんじゃない」
背後から、容赦なく投げ出される女子の声。雑言は徐々に大きくなって、足早に僕らを抜き去って行く。
「あいつら、普通に月城と喋っとるよな。可愛いとか言ってさ。女ってくそ怖ぇ」
唇を半開きにする響木の横で、あえて無表情を保つ。そんなのは上面の顔で、さっきの言葉が本心だ。
月城サヤは人気がある反面、女子からの誹謗中傷もよく耳にする。ほとんどが、彼女の容姿に対する妬み嫉み。
現に天文部の男子は、彼女をちやほやするような性格ではない。
最初のコメントを投稿しよう!