氷雪の蛍火

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「今はどう思う? やっぱり、ないかな」 「……分かりません。運命とか生まれ変わりとか、そうゆうの信じてないから。でも、僕は小夜さんに出会った。それだけは紛れもない事実です」  白い吐息が現れては、すぐに暗闇の中に消えていく。草葉に置く(つゆ)のように。  ゆっくりと伸ばす手が彼女の指に触れて、不思議な空気が流れ始めた。 「最近、ずっと考えてたの。結局、私が成仏する条件ってなんだろうって」  キャンドルの小さな灯りに照らされながら、小夜は潤む瞳を堪えている。 「……小夜さん?」  左手の指先にある柔らかな感触がふわりと消える。黒いレースの手袋が冷たい地面に落ちていた。 「そっか……もう、時間なんだね」  震えながら胸の前で握る彼女の右手は、氷のように透き通っている。  衝動的にその腕を掴んで、小さな体を抱き締めていた。胸の中で蝶の羽音のような声が聞こえて、背中に細い手がそっと触れる。  コートを掴まれる感覚は片側しかなくて、その手は小刻みに戦慄(わなな)いていた。 「小夜さん、手が……どうして? なんで消えてるんだ!」  強める腕には、まだ彼女の感覚がある。恐怖心に襲われながら、僕は抱きしめることしか出来ない。 「初めは、早く成仏しないとって思ってたの。でもなかなか出来なくて。理人といるうちに、このままでもいいかもって、思い始めて」  震えながらも落ち着いた声で話すから、(うなず)いて聞くしかなかった。  彼女との時間は、もうほとんど残っていないと分かったから。 「それから、理人と一緒に存在していたいって思うようになったの。その時から、たまに体の一部が半透明になることがあった。だから気付いた。ねえ、私のこと嫌いって言って? そしたら、すっきり去れるから」
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