氷雪の蛍火

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「いやだ! 僕は、あなたが好きなんだ」  最後の言葉に被せるように、胸の奥から声が出ていた。 「好きなんだ……いつからなんて、分からない。どこがって聞かれても即答出来ない。けど、嘘は言わない。好きだから……何回でも言うから。小夜さんが、好きです」  抑えられなかった。想いが溢れ出すとは、こういうことなんだ。  彼女が消えてしまう勢いからではない。  知らないまま、成仏して欲しくなかった。伝えておかなければいけないと思った。  ーーもう、二度と会えないのだから。  そっと体を離した小夜の瞳から、見たことのない大粒の雫が流れ落ちていた。しなやかな体が宝石のように光を放ち、暗闇の中で輝き始める。  頬に手を伸ばし、優しく触れた。光のせいなのか、しっかりと肌を感じることが出来る。 「初めて……、小夜さんに触れた。あったかい」 「理人の手って、こんなに温かかったんだね」  体温があるように感じられるのは、きっと小夜を包む小さな星たちが熱を持っているからだろう。  濡れた下瞼(したまぶた)を親指で拭う。彼女の瞳の中には僕がいる。しっかりと、その瞳子(どうし)に焼き付けてくれている。  徐々に顔が近付き、小夜はゆっくり瞼を閉じる。しっとりとした唇に触れた。甘い感触が口元と脳内に広がって、それは一瞬にして立ち消えた。  静かに目を開けると、空には虹の星が放たれたように七色の光りが耀(かがや)いていた。  片方の瞳から一粒の滴が零れ落ち、もう片方からも。涙は止めどなく溢れた。 「……小夜さん」  星の光が消えた空の下は金剛石(こんごうせき)のように暗く、気付けばキャンドルの灯は溶けてなくなっていて、色のない世界に僕だけが座っていた。
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