75人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやだ! 僕は、あなたが好きなんだ」
最後の言葉に被せるように、胸の奥から声が出ていた。
「好きなんだ……いつからなんて、分からない。どこがって聞かれても即答出来ない。けど、嘘は言わない。好きだから……何回でも言うから。小夜さんが、好きです」
抑えられなかった。想いが溢れ出すとは、こういうことなんだ。
彼女が消えてしまう勢いからではない。
知らないまま、成仏して欲しくなかった。伝えておかなければいけないと思った。
ーーもう、二度と会えないのだから。
そっと体を離した小夜の瞳から、見たことのない大粒の雫が流れ落ちていた。しなやかな体が宝石のように光を放ち、暗闇の中で輝き始める。
頬に手を伸ばし、優しく触れた。光のせいなのか、しっかりと肌を感じることが出来る。
「初めて……、小夜さんに触れた。あったかい」
「理人の手って、こんなに温かかったんだね」
体温があるように感じられるのは、きっと小夜を包む小さな星たちが熱を持っているからだろう。
濡れた下瞼を親指で拭う。彼女の瞳の中には僕がいる。しっかりと、その瞳子に焼き付けてくれている。
徐々に顔が近付き、小夜はゆっくり瞼を閉じる。しっとりとした唇に触れた。甘い感触が口元と脳内に広がって、それは一瞬にして立ち消えた。
静かに目を開けると、空には虹の星が放たれたように七色の光りが耀いていた。
片方の瞳から一粒の滴が零れ落ち、もう片方からも。涙は止めどなく溢れた。
「……小夜さん」
星の光が消えた空の下は金剛石のように暗く、気付けばキャンドルの灯は溶けてなくなっていて、色のない世界に僕だけが座っていた。
最初のコメントを投稿しよう!