星影の夢

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「ただいま」  久しぶりに帰って来るからと、僕の好物である唐揚げとオムライスが用意されていた。  母の小さな肩を抱くことなど、昔なら絶対にしなかった。また再会出来た感謝を噛み締め、父と数人にも同じ事をする。  数人は鬱陶しがっていたが、僕にとってはかけがえのない日常の一部なのだ。  食事を終えて、懐かしい秘密の場所を訪れる。相変わらず人影も生活音もない無になれる世界。ここの星が一番好きだ。  冷たく爽やかな空気を吸い込むと、心地良い自然の香りが体中を巡っていく。  突風が吹きつけ、草や砂が躍るように宙へ舞う。目にゴロゴロとした違和感を感じて、瞼を擦った。  閉じた瞼の先から、風に乗ったか細い声が聞こえてくる。 「凄い風ですね。 あの、大丈夫ですか……? 」  落ち着いた声色に、心臓がトクンと波打つ。そっと目を開けると、サラサラと髪を(なび)かせる彼女がいた。  また、幻覚でも見ているのか? 「この場所、とても星が綺麗ですね」  宝石のように(きらめ)く瞳は、僕を吸い込むように見据えている。  ハアーーと白い息を吹きかける両手には、黒い手袋が付けられていて、記憶の中の小夜とシンクロした。 「……よく、流れ星が見れますよ」  夢の中でもいいから、もう少しこうしていたくて、僕は小さく息を吐く。 「初めて来るのに、なんだか懐かしい感じがします。記憶だけが、もっと前から知ってるみたいな」 「……記憶?」 「私、二年間昏睡状態で生死を彷徨っていたんです。その時に見てたある生霊と、顔の見えない死神さんの物語」  小さな星が夜空を流れて、キラキラと輝きながら夜の海を泳いでいく。  何かを考えるように、彼女は静かに瞳を閉じた。 「暗闇は希望を生み出す魔法の時間だから、星に願うと叶うんですよ」  穏やかな口調は、僕の知る彼女だった。  一筋の滴が乾いた頬を伝っていく。  それは、この空に輝く星屑のような運命的で必然の出会い。                   fin.
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