中学一年、二人乗り

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中学一年、二人乗り

 向かい側から歩いてくるクラスの女子と、すれ違いざま流れる視線が絡み合う。互いにすぐ目を逸らすけど、その瞬間が、僕にはスローモーションに見えた。  青とグレーのグラデーションが冷たい空気を作る放課後。バスケ部の練習へ向かうため、僕は体育館通路を渡っていた。 「可愛いよな、月城(つきしろ)。幽霊部ってさ、部室とかあんのか?」  僕が唯一、中学で話をする響木(ひびき)が、振り返りながら口を開ける。 「……天文部な。どっか空いてる教室使ってんだろ」 「こんな時間に星なんか見れんやろし、普段何しとるんやろな」  さあなと興味がない素振りで、僕は真正面を向いたまま返事をした。  月城(つきしろ)サヤは、成績も良く容姿も端麗(たんれい)なため、校内で一際目立っている。  風の噂では、最近芸能事務所に所属したらしい。そんな話さえ納得出来てしまうほど、彼女は特別視されていた。 「ユーレイ部ってさ、確か五人くらいしかいないんやなかった?」 「そうそう。それで女子はあの子一人らしいやん」 「わたし絶対無理ー! よっぽどの男好きしか入らんよねぇ。ちょっと可愛いからって、調子乗ってんじゃない」  背後から、容赦なく投げ出される女子の声。雑言は徐々に大きくなって、足早に僕らを抜き去って行く。 「あいつら、普通に月城と喋っとるよな。可愛いとか言ってさ。女ってくそ()ぇ」  唇を半開きにする響木の横で、あえて無表情を保つ。そんなのは上面(うわつら)の顔で、さっきの言葉が本心だ。  月城サヤは人気がある反面、女子からの誹謗中傷もよく耳にする。ほとんどが、彼女の容姿に対する(ねた)(そね)み。  現に天文部の男子は、彼女をちやほやするような性格ではない。
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