開いて干した、朝日と日向と夕日の傘

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たまには、自分語りでもしてみるとする。 特に誰かに読んで欲しいとか、 共感して欲しいとか、 俺ってこんな不幸なんだぜ? なんて『かまちょ』ぶりたいとか、 そんなんじゃなく、 だだの気の迷いだ。 気が触れただけ。 いや、もとい、 気が向いただけ。 俺の一日は、朝が早い。 名前が朝日(アサヒ)というだけあって、日の出前には起床してる。 何故かって言うと、オヤジの朝はもっと早いから。 ウチは古くから農業を営む。 日の出と共に仕事を始め。 日が落ちれば仕事終わり。 だ、そうだ。 朝と晩は、家族で食卓を囲むのが我が家のルール。 あのクソオヤジ。 いや、もとい、 お父上様が言うには、 『貴様らを創造したのは、 わしと母さんであり、 神であり、 理である! よって我が家訓は絶対遵守なのである! この呪縛から逃れたくば、 1日でも早く自立したまえ!』 と、のたまわっておられる。 厨二病を未だ現役で(わずら)うやべーおっさんと、名は体を表すような、突き抜けた明るい母親=日向(ヒナタ)の元に生を受け、数えで15の正真正銘、生まれてこの方黒歴史。イコール彼女いない歴の童貞野郎。それが俺。アサヒ。ふっふー。 あぁ。あと年子(としご)の妹が1人いる。名前は夕日(ユウヒ)。野生のキジ見ると追いかける不思議ちゃんだ。 いいだろ?(何がだよ!) 一度オヤジに聞いた事がある。 『なあオヤジ、ユウヒってさ、 ユ↑ウ↓ヒ?それともユ↓ウヒ↑?』 『あ?お前……。大丈夫か?厨二病か?ユウヒはユウヒだろ?今更何言ってんだ?』 『いや、だからさ…』 『まあまて、そうだな。お前の場合、 ア↑サ↓ヒィィ↑スゥ↓パァ↑〇ゥラァァイ!! だから。ユゥ↑ウ↓ヒィィ↑ でいいんじゃないか?』 『あぁはいはい。よくからかわれますよ。この名前のせいでな!』 アナタのおかげです。 まじ卍。 え、オヤジの名前? 二郎(ジロウ)。 『ラーメン二郎』の二郎。 ウケるだろ? これで次男かと思いきや長男坊っつんだから草生えるわ。 今日も今日とて梅雨のどしゃ降り日曜日。 朝メシ食って二階の自室に籠って暇つぶし。 こんな雨の日。農家はオフだ、休養だ。 やったぜ! ユウヒは隣のサッちゃんと映画観に行くって、朝メシ後にはさっさと傘さして出かけて行った。 行きはサッちゃんのオヤジさんが車で送ってくれるのだそう。 こんな雨の中ご苦労なことで… こんな時こそ晴耕雨読。 わりと好き。 畳の上に寝転がり、さぁどないせう。 なんて、思ってると、 下の階からドシドシバタバタ、何やら(せわ)しなく歩き回るクソオヤジ。 あぁうっせ! 少しはこんな日にでも、情緒に浸る感受性を養えないものかねぇ。 母さんがいつも言ってたな、 『ジロウちゃんは動いてないと死んでしまうマグロだね!あはははははっ!』 風が強くなってきたせいで、ボロ屋のガラスがガタガタ鳴ってる。 そんな音より五月蝿(うるさ)く、ドシドシバタバタ…… ったく、なにやってんだか! こっちは天井の木目と節で、人の顔連想暇つぶしごっこに勤しんでいる最中なのに… ガラガラ…………。ガラガラ…ピシャン! ファッ?! え?今外出て行った? なんで? こんな暴風雨の中どこ行くねん! ウチのおっさんよー! 慌てて窓に詰め寄って外見たら、 庭先で、デカいハンマーもって、サンダル、短パン、ランニングシャツのやべーおっさんいた。 もう既にびしょびしょやんか! 納屋から杭何本か出してきて…… あぁ、そゆこと。 ったくよー! 階段駆け下りて、とりま手短にあった傘2本。引っ掴んで外に出る。 急に大音量になる雨音。 大粒の雨が滝のように打ち付けてる。 風のせいでモヤがかって視界は最悪。 傘さして、バチバチ打ち付けられる雨音に傘手短に持って、風に流されないよう前かがみになりながら、オヤジがいる花壇に近づいて行く。 あっ意味無いじゃん。傘さしてても、もうびしょびしょやわ! ウチの庭は田舎特有、無駄にデカい。 その上、花壇もデカい。 その縁石沿いに、杭打ち付けて防風柵作る気らしい。 「オヤジ!ほらっ!傘!」 「アサヒお前、それ母さんの日傘じゃねーか!」 「あ」 と、同時に突風が吹く。 バンッ!と傘が鳴ってひっくり返る。 もう、マンガやな。 「アサヒ!オモロー!」 手をピストルの形にして、俺を指さす。 「ったく!傘、意味ねぇーなー!」 ピストルの形した手が、親指だけ上向けて、イイネ!のポーズ。 「よう!アサヒー!お前も付き合え!母さんの好きな向日葵(ヒマワリ)守るぞ!」 「わーってる!」 「納屋にインパクトとビスあっからー!それと杉板!あるだけ持ってこーーい!」 俺も親指突き出して『イイネ!』 花壇には、まだ腰の高さの向日葵の苗が沢山、風に晒されながら懸命に耐えている。 反り返った傘を壊さないよう慎重に畳んで、納屋まで猛ダッシュ。 もう、雨に濡れるのなんて気にならなかった。 むしろ打ち付けてくる水圧が心地いい。 暴風雨の中、 アホみたいなテンションで、 バカみたいにはしゃいで、 傍から見たらヤバい親子だ。 あぁ、それ、俺らの事だよ。 笑っておくれ。
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