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暗澹
「終わった」
「何もかも終わった」
男は眠れぬ夜の闇の中で、何物にも届かぬ虚空へ手を伸ばした。
外の微かな灯りが、男の手の甲に深い陰影を刻む。
若い頃から鍛えて来た足腰は健在であったが、薄くなった頭髪に白いものが目立つようになってから、自分の老いを象徴するものはなるべく見ないようにして来た。
若ければ、まだ希望を見いだせたかも知れない。
今日、悲壮な覚悟で臨んだ最後の大博打も、ここぞという時に勝負勘が鈍り、負けてしまった。仲間には強がってみせたが、もはや取り返しがつかないのは自分が一番よく分かっている。
何をやっているんだ。
何をやって来たんだ。
真っ当に働かんかと、手を差し伸べてくれた老叔父の顔にも泥を塗った。
そうして選んだ道の末路が、これなのか。
思わず、自嘲混じりの溜め息が漏れる。
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