コネクト

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コネクト

 終点のバス停は変にだだっ広い草原の真ん中にある。星の王子さまに出てくる、バラ以外のすっきりした花ってこういう花のことを言うのだろうな。ぼんやりとした、ひょろひょろした茎の白い花がまばらに生え、浜風に揺れている。病院以外に用のある客などほとんど居ないのだから、病院の入り口まで乗せていってくれればいいのに。草原に一本だけ整備された病院へ至る歩道を、人並みを掻き分けながら早足で進む。これでも少しは悪いと思っているのだ。  しかし、病院に着くとあいつは居なかった。主治医が言うには、体調不良で欠席するという連絡が来たのだそうだ。どんなひどい悪態をつかれるかと半分憂鬱、半分怖いもの見たさでわくわくしていたので、なんだか拍子抜けしてしまった。 「だから今日は予備のストックを使おう。彼は後日ここに来るから、君の分は今日採取しておくからね」 「はい。でも彼、大丈夫なんですか」 「おっ、普段喧嘩ばかりしてるのに心配してるの」 「そんなんじゃ。だってあいつが居なくなったら、私も生きられなくなるでしょ」 「ふーん。まあいいけどね」  主治医は私の両腕にチューブの付いた針を刺した。前の人は針を打つのが下手で、時に手が痺れるくらい痛んだので、ただでさえ嫌な作業が余計憂鬱だったが、この人は段違いに上手い。主治医は話を続けた。 「大丈夫、ありふれた感冒みたいだから、命に関わることにはならないよ」 「そ、ならいいけど」  ベッドの後方にある機器がヴヴヴと唸りだした。右腕のチューブが赤く染まり、あいつの体液が私の中に入り込む。同時に左腕のチューブから私の体液が出ていった。低温で保存してあったストックは、生身の身体から直に来ているのとは違って、やはり少し冷たい気がする。私は身体の右側が徐々に冷えてくるのを感じながら、普段ならあいつが寝ているはずの隣のベッドの方を見やった。  そういえば小さい頃はよくこういうことがあったような気がする。子供は体調を崩しやすいから、考えてみれば当たり前なのだが、ここのところずっと同時に体液交換をしていたので忘れていた。私はやっぱり少し淋しいのかもしれない。例え治療中、お互いに好き勝手に映像を観たり電子書籍を読んだり、あるいは寝ていたとしても。  いつの頃からか、欠けを持って生まれてくる子供が増えた。何故かその欠けは、同時期に生まれた赤ん坊の間で補い合うように発生した。誰が誰の欠けを補い合うかはまるでランダムで、血縁もなければペアになる子供達の性別も、どこが欠けるかも様々だった。健常に生まれてくる子供も少ないながらいるので、国の偉い人達はなぜ欠けが発生するのか、健常に生まれた子と欠けのある子の妊娠中の経過など、様々な調査を行ったそうだが、今現在も原因解明できていないらしい。  私が五体満足で生まれてきた時、両親は泣いたそうだ。外見的な欠けがないということは、中身に欠けがある可能性が高いからだ。指が一本多いとか足りないとかなら、形成手術や義指の装着によって、ほとんど健常者と変わらない生活ができる。しかし内臓や内分泌系の欠けでは…・・・。彼らの心配は的中した。幸いというべきか、生まれた子供の調査管理網がすでに整備されていたので、私のどこに欠けがあるのかと、それを補うパートナーは直ぐに調べられた。そんな訳で私は定期的にこの専門病院に通い、パートナーであるヤスと体液の交換をしている。もっとも、今日は居ないけど。
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