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埋まらない溝
「お菓子の作り方を教えてはくれないか」
「何故わたくし!?」
「すまぬのう、お主なら上手くやってくれると思ったんじゃ。どうか教えてやってくれんか」
「は、はい⋯⋯、構いませんわ」
東海道さま、今日はお菓子をお作りになりたいご様子。
「はーい、今回お集まりいただきましたのも⋯⋯そうです、一緒にお菓子を作りましょーう!」
今回は緊張がおやばいのですわ。姉様がいらっしゃるのですわ。
ここはわたくし緩行線、張り切らなくては!
大師さまにもご協力いただいて。
「いつもうちの馬鹿が失礼を⋯⋯」
「よいのだ、私は普通に接してくれる奴が嫌いでない」
今日は保護し、根岸さまがいらっしゃいませんが、このメンバーなら大丈夫でしょう。姉様も、これを機に溝を小さくできれば良いのですが。
その真の目的は、果たされるのでしょうか。
「くっきーは私でも手軽に作れるのだな!」
焼きあがったクッキーを袋に詰め、東海道さまに渡す。
「はい。これでどんどん幅を広げていけば、たくさんのお菓子が作れるようになりますわ」
「礼を言うぞ、緩行線。皆も、世話になった!」
「転んで割らないように気を付けて」
とりあえず第1ミッションコンプリート。
東海道さまを見送り、一息つこうとした。
「お前、どういうつもりだ」
「ぷぎゃ」
姉様はわたくしを引っ捕まえる。
「私は⋯⋯苦手なんだ」
その言葉が指すのは、東海道さま。それだけではない。
「でも姉様、わたくしはどうにか」
「そうだな⋯⋯わかるはずもない。国鉄生まれのお前に、命に等しき尊いものを奪われた傷が、理解できるはずがない」
「⋯!」
「その傷を全て赦せと言うのなら、それは不可能だ」
姉様が国鉄を憎んでいるのは、既知の事実だった。
しかし、その淡々とした口調に込められた怒りは、普段とは全く違った。
「私はお前らに全く馴染めない。協調性もない、卑屈な奴だ。世話のやける面倒の塊だ。横須賀だって、そう思っているから⋯⋯」
「お姉さん、落ち着きな」
間に入ったのは大師さま。
「確かに国鉄は、国は、大きな利益ばかり求めて何も見えていやしなかった。権力の元に私たちは無力だった。鶴見、南武、神中、海岸だって。抗う余地もなかった」
海岸という名前に聞き覚えがあったが、よく覚えていない。
しかし、もういないであろうことは理解できた。
「私も憎いさ、あいつらが。今でもね。だけど、巻き込まれた路線たちには、何も関わりはない」
「⋯⋯そんなことわかっているさ」
「他所から首を突っ込ませてもらうけど、せっかくの家族だ。特殊な身の上とはいえ、大切にしてやりなよ」
「大師さま」
「⋯⋯」
姉様の表情は、段々、いつもの拗ねたようなムッと顔に変わる。
「それはこいつの働き次第だ」
「おや。だそうですよ妹さん」
「姉様ぁ!わたくし、頑張りますから!」
「うわっ、やめ⋯⋯」
普段の姉様にすりすりしようものなら、問答無用で殴られる。しかし、この状況に乗じればきっ
「離せバカ!」
「あうっ!」
そんなことはなかった。
うわあん大師さま、笑わないでくださいまし!
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