地球最後の日のツイッター

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# 地球最後の日だし真面目に世界平和について考えよう # もう死ぬから個人情報晒す # 地球の走馬灯 # 地球最後の日 # 死にたくない # 生きたい # 誰か殺して # 怖いよ 【拡散希望】一緒に最期を過ごしてくれる人募集 【悲報】親が心中してた、私を残して。 【朗報】隕石が落ちてくるなんて嘘(嘘)。 「天文学者はこんな間近で星を見られて喜んでるのかな」 「隕石が落ち来ませんように」 「おはよう」 「なんで、なんで?」 「家族も友達もいないから、最期を過ごすのはひとりぼっち。せめて、ギリギリまでタイムラインにいる」 「どうせ死ぬなら、人を殺してみたいとおもう」 「朝起きたら、両親が心中してた。どうすればいい。ねぇ、どうすればいい?」 「愛犬の寝顔が少しだけ、羨ましい。最後まで、ほのぼの写真をTLに流して、少しでも和ませます」 「どうぶつえんきた」 「これから死ぬって実感がぜんぜんないなぁー」 「これからTLに遺言流しまーす、流しそうめんみたいに」 「童貞のまま死ぬのかよ……」 「処女のまま死にたくないので、誰かエッチしてくれる人いませんか!?DMにメッセージください!」 「ヒーローはいつ来る!?」 「漫画だったら、ドラマだったら、映画だったら、小説だったら、こんなつまらないオチあり得ないじゃん」 「僕は天文学者なので、この死に方は、割と悪くないと感じてる。死にたくはないけどね」 「俺の右眼に宿った暗黒神の力で、隕石を破壊する。俺が死んでも、悲しむな。俺は最初から此の世界の人間では無いからな」 「誰でもいいから、なんとかしてよ」 「人類の終わりに立ち会えるのは、ほんのちょっぴりだけ、光栄、かな」 「こわいよ」 「贅沢な朝食を食べたのに、全部吐いちゃった。もったいない」 「ツイッターやってる時間も惜しいけど、記録に残らないだろうけど、でも、最期のときを家族と過ごせるのがなんて幸せか、叫びたい」 「地球の裏側の連中は即死できないだろうから、かわいそうだ」 「おやすみなさいzzz」 「死にたくない」 「死にたくないよ」 「死にたくない」 「死にたくない」 「死にたくない」 「死にたくない」 「早く死にたい」 「死にたくない」 「死にたくない」 「死にたくない」 「死にたくない」 「死にたくない」 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 「なんで地球最期の日にもツイッターが使えるんだろう?」 「やっぱり、ここか」 探していた男をようやく見つける。本当はここにいるだろうと分かっていた。でも、まさかこんな日にまでここに来るとは思わなかった。 「地球最後の日に、ツイッターのサーバー管理、なんてどうなんだろうな?」 男は振り返らずに応える。 「うーん、どうなんだろうなぁ」 「控えめに言っても、頭がおかしい」 「それは、ここに来た君にも言えるんじゃないか?」 「……俺は、お前がいるから、ここに来たんだ」 数ヶ月前に宇宙船が飛び立った。搭乗者は政治家や学者、医者その他生き残る価値があると思われる人間、さらに未来を繋ぐ為に十代以下の子供たちが主だった。また、人類の歴史に残るような小説、映画、美術品なんかは全てデータ化されて、積載されている。まさに、人類の叡智の結晶とも言うべき宇宙船は、飛び立った数時間後に、隕石よりも先に地球に落ちてきた。生存者はゼロだった。墜落原因を調べた暇な人間によると、些細な点検ミスではないか、とのことだった。今、地球に残っているのは、選ばれなかった人間たちだ。 「こんな日までサーバー管理なんてする必要ないだろ」 「でも、まだ、呟いてる人がいるし、サーバーが落ちたら困るだろう」 「お前ほどの仕事中毒を知らない」 「仕事中毒って訳ではないんだけど」 「じゃあ、なんだってんだよ」 男は椅子を回転させて、振り返る。俺を見る。 「3年前、隕石落下のニュースが流れたときは随分荒れたけど、」 「何の話が始まるんだ」 「まぁ、聞いてくれ」手を動かしながらも、話し始める。 「隕石落下のニュース直後は、みんな自暴自棄になって大変だった。宇宙船が落ちたときも。でも、今日は地球最後の日なのに、水道水から水が出てくるよね」 それがどうした、と言いかけて、それは当たり前ではないことに気が付いた。「飲める水が水道水から出てくるし、だいたいの地域で電気も使える。毎日の食事も、殆ど困らない。ネットで人と人が繋がれる。ツイッターで呟ける。他でもない、地球最後である今日という日を、当たり前の日常として過ごせるっていうのは、実はとても尊いことなんじゃないか、って僕は思う」 俺たちは二度絶望した。最初は隕石の地球落下が分かったとき。二度目は宇宙船が落ちたとき。選ばれた優秀な人間でさえ、この危機を避けることが出来なかった。選ばれなかった普通の人間が、隕石に立ち向かえる筈がない。でも、たまにこいつのような人間がいて、普通の人間のくせに、到底力が及ばない非日常に対して真正面から日常でぶん殴ろうとする。なんて馬鹿だろう。なんて、愛すべき馬鹿だろう。 「でも、じゃあ、最期まで、お前はここでツイッターを見守ってるわけか……」 俺はサーバー室で最期を迎える覚悟を決めかけた。 「最後までは見守らないよ」 「?」 「正確には最後まで見守ることが出来ない、かな。あと、二時間くらいで、隕石のナントカの影響があるらしくて、地球上の全ての精密機器はイカれてしまって、使えなくなる」 「それ以降の予定って、決まってんの?」 「決まってないよ」 「俺が決めていいか」 「うん、ありがとう」
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