嘘の始まり

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「ねぇ、この人誰?」 「ちょっと黙ってろって。えっと、今日って」 しどろもどろになる貴稔と対照的に、隣の女性は不機嫌そうだ。 「映画に行く約束してたよね。でも、いい。ひとりで行くから。さようなら」 エレベーターから貴稔を引きずり出すわけにもいかず、踵を返して非常階段に向かう。 「待てよ」 「来ないで! もう2度と顔も見たくない」 後ろから追いかけてくる気配に、そう言い放って階段を駆け下りた。 その後のことはあまり覚えていない。 なぜか観る約束をしていた映画にひとりで行き、泣ける話ではなかったはずなのにひとり号泣した。 .
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