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第一話 清廉潔白
人は変わることができる。
年齢だけ大人と言えるあなたの口癖は、「俺は歴史を変える男になる」だった。
特に財力があるというわけでもないあなたが、いつも何か大きなことを言う度に、なんと言っていいのか分からず、私はただただ「スゴイね」と言った。
精神面では壊れやすかったあなたは戦わないことを選ぶのを恐れ、無欲な私を心配したりした。
朝から常にフルテンションで、勢いと直感で行動するあなたに、私は振り回されて大変だった。
見るからに悪人顔のあなたと、ただ何となく一緒にいるのだと思っていたけれど、見かけとは裏腹に孤独に弱いところなど、そのギャップにやられていたのかもしれない。
「誰も寄せ付けなさそうなところかな」
互いのどこに惹かれたかという話題になったときに、瑛隼の回答をきいて私はややがっかりした。
「なんか納得できる答えじゃなかった」
当時を振り返った私は、彼に何と言ってほしかったのだろうと首を捻ったが、思い浮かばなかった。
「だけど、私に気付いて~って言ってるような気もした」
「放っておいてよかったのに」
人とつるみたがる瑛隼は刺激的な友人を多く持っていて、大学で一人で行動する私にときどき声をかけるようになった。
友達を一切必要ないとは思っていなかったのだが、人とのコミュニケーション能力が欠落している私は楽な方を選んでしまっていた。
「人って時々心無い発言したりするでしょ?」
「そうだなあ。まあその人は舞にそれほど気を許してるって思えばいいんじゃないか?まだ仲良くない人にあんまり毒吐かないだろ?」
「・・・。そうかもね」
私は瑛隼のこういうところがニガテだった。
基本的にポジティブで、相手を負かすために傷つけることを言うような人のことでさえもプラスに受け止めようとする。
彼といると、流されてしまいそうで、自分を見失うのが怖かった。
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