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暗い。
目を閉じているのか、開けているのか分からない暗さ。
立っているのか、それとも横になっているのかさえ理解不能な闇。
一瞬、自分の今の立場に、不安が急に胸に広がる。
その時、左手に違和感を覚え、俺はビクッと肩を震わせる。
しかし、その左手がぎゅっと握られた。
「緋朝、私よ」
「水夜」
「そうよ、落ち着いて」
暗闇に慣れてくると、ここがどこか広い場所の廊下にいる事が分かった。
ーーー例の工場だ。
足を動かすと、ガラスが割れているのか、ジャリッと音を立てた。
だけど、痛くはない。
「水夜、靴を履かせておいてくれたのか?」
「勿論よ、危ないもの。さあ、社長室は確かこっちだったハズ」
俺たちは手を繋いだまま、まっすぐな廊下の奥を目指して歩いていく。
「その前に、水夜。懐中電灯は?」
「……ごめんなさい、忘れたわ」
「はぁ!?」
暗くて細かい彼女の表情は分からなかったけれど、そんなに悪いとは思っていなさそうな気がした。
「準備をしてくるべきだったけれど、日記の感じでは昼間の到着かと思ったんだもの。
……これからは、読んだページに確実に飛ばされないかも知れないと思っとかないといけないわね」
「一度取りに帰ろうぜ」
「えぇ?面倒臭いわねぇ」
「お願いだよ、水夜!」
俺の嘆願に水夜はため息をついて「分かったわ」と言ってくれた。
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