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「水夜!」
俺の制止も聞かずに、男の顔の前まで行くと、彼女は手のひらを広げて、石膏男の顔を鷲掴みにしようとした。
「やめろっ!」
気味の悪い石膏男になんか近づきたくはなかったけれど、水夜の行動に近付かざるを得ない。
「緋朝、離しなさい。この男に理由を聞かなくちゃ!」
「触るな!危ないだろ!こら!やめろっ!」
「離しなさい!男が消えてしまうわ!」
俺たちが揉み合っている間に、男は壁の中にゆっくり吸い込まれるように消えた。
吸い込まれるのが嫌なのか、それとも苦しいのか、踠きながら消えていく。
それと共に俺たちも暴れるのをやめて、何もなくなった壁を見つめた。
「緋朝、あなたが止めるからよ……もう少しだったのに」
「捕まえた所で、あんな状態で普通に話してくれる訳ないだろ!なんで、お前は後先を考えないんだよ!」
「分からないでしょ?話せなくても何かヒントはあったかも知れないし」
俺から目線を外し、少し頬を膨らます水夜。
それを可愛いと思ってしまう自分がヤバい。
俺は片手で瞼を押さえるとため息をついた。
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