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「水夜の館の風呂場でも、蜘蛛の糸のような物に触れた」 水夜は俺の顔を見上げる。 「……社長室の隠し部屋の蜘蛛と関係あるのかも。こっちよ」 俺たちは早歩きで社長室へ向かった。 長い廊下の奥。 と言っても、端から端まで普通に歩いても20秒もあれば着きそうな距離なのに、進めば進むほど俺の体が重くなる。 なんだ、この後ろに引っ張られるようなこの感じ。 ……バネをつけられて引っ張られているような気がする。 「緋朝?」 少し前を歩いていた水夜が俺を振り返って、目を見開いた。 「ちょっと!やだ!」 自分をよく見ると、透明で細い糸が俺の体に絡まり、白く束になり始めている。 「う、わっ!何これ」 「動かないで!余計に絡まるかも」 水夜は、俺に絡まる糸を手で払い除けるが、ベタつくようで、手をパンパンとはたいた。 「緋朝っ!」 「なに!」 「帰るわ」 「えっ…ちょっ…」 彼女は背伸びをすると、俺に抱きつき、額に勢いよく唇をつけ、そのあと、またまぶたをフワッと触れる。 俺が言葉を発する前に、目の前の景色が急に明るくなる。 ……水夜の館に戻ってきたんだ。
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