34/35
前へ
/360ページ
次へ
その棚の隙間の向こうは、俺たちがいる社長室より暗い。 月明かりも届かない、闇だ。 棚の隙間には蜘蛛の巣が張ってあり、俺はチャッカマンのスイッチを入れて、糸を焼き切った。 「よし、入ろう」 その時だった。 廊下で見た、石膏男が棚の壁からグニャグニャと出てきたのだ。 「うわっ…!」 今度は石膏っぽくはなく、まるで書類の顔にペイントしたかのように、バインダーや紙の束が顔の形になっている。 「うぁ、ああぁ……うおぉぉお…」 呻きながら、顔を伸ばして出てくる男に懐中電灯を当てた。 さっきも思ったけれど…コイツ、やっぱり苦しんでいるように見えなくもない。 何かに怯え、叫び。 口からピタピタと何かを垂らした。 その音は、かなり気持ち悪くてゾクッと背中に冷たい汗が流れる。 水夜は落ち着いた様子で、少し離れた所から男の顔を観察し、男の周りに張り巡らされている、蜘蛛の糸をチャッカマンで焼いた。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加