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「良かった……ホントに帰って来ることが出来て良かった……」
その言葉に、俺は蜘蛛の糸に絡められ、水夜に好きだと言えば良かったと、後悔した事を思い出した。
だけど。
本人を目の前にした途端、俺と彼女が住んでいる世界が違うこと、彼女は死んでしまっている事を思う。
そして、彼女が俺を友達として純粋に心配しているのに、俺がそんな目で見ていると思われるのも恥ずかしいと思ってしまう。
……結局、言い出せず、俺は彼女の腰に両手を回し、トントンと優しく叩いた。
「大丈夫だよ。水夜も無事で良かったよ」
「私は大丈夫よ、何かあれば最終的には食べるもの」
俺が顔を上げると、水夜も俺を見下ろす。
お互いにプッと吹き出すと、水夜は椅子に座り直し、俺たちは残った料理をもう少しずつ食べた。
***
「に、しても。一体あの蜘蛛は何なのか。あの部屋の蜘蛛たちの魂の塊とか?よくあるじゃん?怖い話とかで、怨霊の集合体とか」
俺は食後のコーヒーを飲みながら言った。
「私も思ったけれど、なんだか違うようなのよね、あのケースの蜘蛛たちの魂は、一応視てみたけれど、変な言い方だけど、もう成仏しているわ。ただの死骸だった」
「ふぅん、そうか。でも、何らかあの部屋の蜘蛛には関係あるよな」
「そうね」
俺たちはお互いに、蜘蛛の謎を解くべく、無言になった。
が、その無言の静けさに、リーンとハンドベルのような綺麗な音が食堂に響く。
「な、なにこの音?」
「あぁ、万屋の伊蔵くん。」
水夜が立ち上がり、キッチンの方へ歩いていく。
何だ?よろずやのいぞう?
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