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「ちわぁ!万屋でぇす!ご注文の品お届けに参りましたーぁ」
明るいトーンで、若い男の大きな声が聞こえる。
「ありがとう、そこへ置いて貰って大丈夫よ」
「水夜さん、今日も綺麗っすね!やっぱ、俺が配達してる中で1番の美人っす」
「伊蔵くん、いつも褒めるのね、ありがとう」
伊蔵という奴の声はデカい。
キッチンの奥で、水夜を口説いているのが丸聞こえだ。
そして、ゴトゴト何やら荷物を並べる音が聞こえる。
俺も手伝った方がいいのかな?なんて迷っていると、水夜と伊蔵とやらが、こっちへやって来た。
伊蔵は、白のTシャツに紺の腰エプロンを巻き、ジーンズを履いている。
「緋朝、紹介するわ、万屋の伊蔵くん。色んな空間を移動できる何でも屋さんのウチ担当の方なの。大体買い物はこの万屋さんからしているの。伊蔵くん、こちら宮本緋朝さん」
「ども!伊蔵です。水夜さんにはご贔屓にしてもらってまっす!」
「宮本です。あー…っと会社員です」
伊蔵は金髪をルーズに跳ねさせ、長めの前髪をゴムで束ねた今風の若い男だ。
瞳の色が綺麗な金色の、猫のような鋭い目で、ニコリと笑う唇から見える歯には、尖った八重歯が見えている。
猫背だが、しっかり背筋を伸ばせば背は高めだろう。
「宮本さんっすねー!前に水夜さんからちょこっとお話聞いてました。万屋の伊蔵、お見知り置きを」
膝まである腰エプロンの真ん中に、筆で書いた白の丸。
その丸の中に大きな万の字が書いてある。
その万を指差しながら、伊蔵はニッコリと俺に微笑みかけた。
俺も愛想笑いをしながら、小さく頭を下げる。
前に水夜から聞いた書いたいものがあれば注文出来ると聞いた事があるけれど、この万屋のことか。
「水夜さん、今日は、ご注文ありますか?今日は色々安くなってますよ、魚なんてどっすか?あと、緑霊香も安くなってますよ」
「じゃあ、オススメのお魚と、じゃが芋、それから、緑霊香も。あとは……」
伊蔵はメモをサラサラと取っていき、水夜の注文を待つ。
「あとは、伊蔵くん。たて子さんの事覚えてる?」
伊蔵がメモから目を離し、水夜を見た。
「勿論、覚えてますよ。目が縦についた女…でも解決したやつっすよね?」
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