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一瞬、ここがどこで今どんな状況か分からなかった。
心臓がバクバクしている。
「緋朝、ずいぶんうなされていたわ。起こしたんだけど、起きなくて……大丈夫?」
水夜の優しい声に、ここが水夜の館にちゃんと居て、俺は生きている、と思う。
でも、安堵のため息をつく前に、俺は水夜の両肩を掴み、大声を出した。
「水夜、分かった!分かったぞ!蜘蛛は金庫の中だ」
「えっ…」
過去に起こった出来事を、今、社長目線から見てきた事を俺は話した。
「金庫の鍵は、何故か、やよいさんの所から持ってきたあの鍵なんだ。暗証番号は0062!今すぐ行こう!」
しかし。
水夜もすぐに行こうと言ってくれると思っていたのだけれど、水夜は静かに首を左右に振った。
「待って、緋朝。あなた、とても顔色が悪いわ。もう少し落ち着いてからにしましょう」
「大丈夫だ。俺は元気だけど!?」
だけど、彼女は「うん」とは言わない。
再び首を左右に振る。
「もし、行くなら、来週の土曜日。それまでに体調を整えましょう。ね?緋朝はお仕事もある訳だし」
「……」
俺は不服だったが、彼女の言うことは正しかった。
その後、俺は熱を出してしまったのだ。
単なる疲れからだったが、水夜の看病を受ける事になる。
月曜日、会社に行けるほどには復活していたけれど、モヤモヤとした気持ちで仕事をしていた。
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