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水夜は起き上がると伸びをして、長い髪を手ぐしで梳かした。
「緋朝、15分ほど時間をくれる?支度をするから、食堂で待ってて?お茶でも入れるわ」
「あ、ごめん」
水夜はまだ下着姿で。
白い肌をあまり見ないように、俺はすぐに部屋を出た。
食堂の窓ガラス越しに見える外の景色は、ぼんやりとグレーで、ザァザァと雨が降っている。
俺は椅子に座り、窓の外を見ていた。
今回も無事に帰ってきたんだなと言う気持ちが、この静かな景色を通して、実感に変わる。
ホントに帰れて良かった。
杉村のように、何十年と、あの場所で魂ごと縛り付けられる事を考えると、ゾッとする。
杉村…そうだ、杉村の財布。
俺は自分のポケットに入れっぱなしの杉村の財布を出した。
あの時、確認したものと同じ、免許証と金。
……落ち着いたら、これも屋敷の裏に埋めてやるか。
そう思っていると、カツンとテーブルの下に何か落ちた。
財布の隙間に何か挟まっていたみたいだ。
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