190人が本棚に入れています
本棚に追加
/360ページ
「そうね…彼も大変な思いをしてきたもの。雨が上がったら、何かいい大きさの入れ物に入れてから、埋めて、手を合わせてあげましょう。
……うー…ん、何か入れ物あったかしら?」
俺は杉村の財布を水夜の前に置く。
水夜がその財布を手に取り、ひっくり返したりして、大きさや厚みを確かめる。
「クッキーの、小さめの缶に入るかしら?あっ…」
財布の隙間から、さっき挟んでいただけの銀色のプレートが間から落ちた。
水夜が拾う。
「小花?なにかしら?鉄?アルミ?で出来ているわ。
「や、もう何にもいれなくていいんじゃね?気持ちだし。埋めてあげれば」
「まぁ、緋朝ったら。この人にも、こうやって思い出を大切に持つ、人間としての綺麗な心を持っていたのよ?なにもない今、こうして遺品だけでもきちんとしてあげたいでしょう?」
水夜は、小花と書かれたプレートを小さく振った。
「水夜は優しいな。でも、そのプレートがいい思い出かどうかは分かんなくねえ?もしかしたら、誰かから金を巻き上げた時に、たまたま一緒に入ってた物だったかもよ?」
水夜は、俺の言い方に片眉を上げた。
「緋朝は想像力豊かなのね。私は自分が死人だから、なるべく死人の遺品をよく思いたいだけなのかしら?」
しまった。
やってしまった。
「ごめん」
「入りそうな物を探してくるわ」
彼女は、立ち上がると、俺の方を見ずにそのままキッチンへ行ってしまった。
何で、俺いちいちあんな事言ったんだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!