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「なぁに?探し物より先に、何か食べたい?用意しようか?」
俺を見つめる水夜の瞳に耐えられず、違う方に目をやる。
俺が、水夜を好きだと言ってしまえば、彼女は困るだろうし、それに、もうここへは来れなくなってしまうかも。
ネガティブないつもと同じ事が頭を回る。
「いや、何にもない」
俺って、何なんだよ。
「やぁね、私がモヤモヤしちゃうわ、早く話して」
「ホント、何にもなかった!ごめん!この棚か?水夜にはちょっと高めの棚だもんな、俺が見てやる」
俺は戸棚の扉を開けると、中にある物を物色した。
「緋朝、ちょっと待って、こっちを見て」
「なんだよ」
俺は戸棚の中を見たまま、手を止めず答える。
「こっちを見て?」
仕方なく、手を動かすのやめて、彼女の方を見た。
「気になるわよ、話して欲しいわ」
「何もないよ」
水夜の目が不満げな顔に変わる。
言っても、どうせ俺が落ち込む事にしかならない。
分かってるから言えない。
「あー…実は、さ、明日会社でさ、めんどくさい仕事があるんだよ。行きたくないなー、ここでずっといたいなぁー…なんて」
でも、水夜にはウソだと、バレていたのか、俺を呆れたような顔で見た。
「……ホントだよ。明日は嫌な仕事が、朝から晩まで詰まってるんだ。
だから、面倒でさ、ここにずっといたいなって思っただけさ」
半分、ウソじゃない。
ずっと、一緒にいたい。
水夜は本当の事を、俺が話す気がないと思ったのか「んもぅ…」と唇を尖らせて、自分が探したい戸棚の方へ行ってしまった。
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