仲良し

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「私、少し前に、お弁当を作ったの。緋朝に食べて貰おうと思って、初めて、緋朝の世界へ行ったわ」 「え…」 「あなたのスマホに連絡しようとした時に、たまたま緋朝と、矢田さん?名前は分からないけど、とても可愛い女性だったわ。近くの飲食店へ入って行ったから、私、帰ったの」 数日前、確かに矢田さんから誘われて、近くの定食屋さんに行った。 一緒にランチして、昼の休憩時間が終わる前には戻ったけれど、相変わらず矢田さんは、俺にベッタリだったんだ。 その頃は、水夜への気持ちを忘れつつあったし、矢田さんが俺の腕に巻きついて来ても、悪い気はしなかったし、俺もわざわざ離れる事をしなかった。 きっと、その時、水夜は近くで、それを見ていたんだ。 水夜が、彼女じゃないのに、なんか、浮気現場を見られたような、そんな変な気持ちになる。 俺の頭の中で、ドクンドクンと血液が流れる音と、心の奥底で眠っていた水夜への感情が混ざり合い、言葉がうまく出ない。 「すぐ帰ったわ。それに、分かってるの。緋朝が自分の世界で幸せに暮らすのがいいって。だけど、だけど……」 水夜がスプーンを置き、下を向いた。 「1人で生活してるのが、こんなに寂しいって思った事なかったのに、緋朝が羨ましいって初めて思ったの」 どうしたらいいんだ。 なんて言えばいいんだ。 「……水夜、あのさ」 その時だった。 ガシャーン!!と館のどこからか大きな音が響いた。
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