街に住む野獣

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「それは分かってる。でも…」 「とりあえず俺も日記を読むしかない」 日記は、重く、まだまだ続きが長いのが分かるほど分厚かったのを、今、手に取らずとも分かっていた。 そして、水夜のような強い霊能力で退治できる女性ですら、体験するのを躊躇う。 ……いや、水夜の場合は、俺を巻き込むのを心配しているのだけど。 初めの頃は興味で、俺に日記を読んで貰いたがったけれど、今は俺を守る為に、仲良くなればなるほど日記を避けがちになって、前にも言い合いになった。 明らか、日記の話題に触れないのも、お互いに分かってた。 勿論、俺だって避けたいけれど、また始まった怪奇現象を放置して、水夜が危ない目に遭うのだけは、嫌だ。 俺たちは、覚悟を決める。 いや、俺が覚悟を決めると言った方がいいか。 怖がりが、すぐになおるハズもないし、水夜が怪我をした事を考えると、俺が守らないと、彼女は今回も大変な目にあってしまうかも知れないのだ。 二階の俺の荷物が置いてある部屋で2人して、ベッドに腰かけ、そして、日記のページをめくった。 「緋朝…」 俺は何も言わずに、水夜の冷たい指先を握りながら、読み始める。 *** 7月16日(月) 工場の幽霊退治は、少し気になる終わり方をした。 しかし、あの蜘蛛の量は異常ではあったし、あれを放置してくるべきだったかどうかは、疑問が残るけれど、無事に屋敷に帰って来れたからよしとし、万屋に報告することにする。 次のいい依頼を見つけるまで、しばらくここにいることにしよう。
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