たて子さん

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ダメだ、と思った瞬間、目の前が暗くなる。 ハッハッハッ……と短く切れる自分の息遣いだけが耳に異様に響いた。 いない。 目の前まで迫っていた女がいない。 目を動かすと、見覚えのある空間。 ……自分の、部屋だ。 震える手で、自分の顔を触る。 汗が滲んでいて、手の平がべたついた。 ようやくそこで俺は、ゆっくりとベッドから起き上がり、辺りを見渡した。 ……夢か。 心底ホッとし、大きくため息をつく。 夢で良かった。 ホントに夢で良かった。 あまりにリアルで、ハッキリした感触まであったから、まだ心臓が早鐘を打っていた。 「……マジ、やめろよ」 俺は1人呟くと、リモコンで部屋の電気をつける。 部屋が明るくなると、安心したのかカラカラに喉が渇いているのが分かった。 冷蔵庫の冷たい水でも飲もうと、ベッドからノソノソと下りる。 「……?」 歩こうとして、 足の裏に違和感を感じた。 ……何かを踏んだ。 「う、わっ!」 絡み合った長い毛の束を踏んでいた。 俺には今彼女がいないし、昨日も掃除機をしたところだ。 そもそも、こんな毛の束があれば、帰ってきた時に気がついている。 「……」 もしかして、俺はあの気持ちの悪い家にマジで行ってきたのか?
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