街に住む野獣

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次の日も仕事だった俺は、水夜に十分気をつけるように言った。 夢に見た少年の事も話した。何かヒントかも知れないし、と思って。 水夜はいつもの薄く笑顔を作って、コクンと小さく頷き、そして「いってらっしゃい」と静かに言った。 綺麗だ。そして、可愛い。 思わず抱きしめる。 「緋朝も気を付けて。あなただって狙われているかも知れないから」 俺の胸の中でそう言う彼女。 「分かってる、夜にはここへ戻るから」 俺は、水夜の屋敷から、またしばらく仕事に通う事にした。 *** 仕事を持ち帰る事があった日は、俺の荷物を置いてある部屋の机で仕事をし、ベッドに座り、彼女は静かに刺繍をしていた。 全く気配を感じないので、何度か振り返った程だ。 「眠くない?」 俺が聞くと、彼女は小さく首を振る。 「緋朝のお仕事してる姿はかっこいいのねぇ。疲れない?熱いお茶でもいれましょうか?」 好きな子に、かっこいいと言われるのって嬉しいのな。 少し照れるけど、モチベ上がる。 「いや、もう少しで終わるからいいや、ありがとう」 「もう少しなら、お風呂、用意する?それとも、何か食べたい物でも?」 あの大きなお風呂は、獣が壊してくると厄介だ。 二階の、俺たちが2人で眠る為の部屋には、トイレとは別に小さな浴室があった。と言っても、ここの大理石のバスルームに比べて、という意味だ。 使った事はなかったけれど、あそこなら、交代で風呂を使っても、何かあればお互いに素早く助ける事が出来るかも知れない。
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