街に住む野獣

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「水夜、ダブルのベッドがある部屋で風呂しよう。あそこなら、広くないし、助けもお互いに呼びやすいだろ?」 「そうね。そうしましょう。じゃあ、緋朝が先に入ってね。お風呂用意するわ」 長い髪を揺らしながら、彼女は立ち上がった。 自分で話しておきながら、2人で順番に同じ浴室を使う事にあまり抵抗のない彼女に、やっぱり男として見られていないのかと、苦笑いが出た。 いや、いつものあの大浴場も交代と言えば、交代なのだ。 でも、あまりに広すぎて、まるで銭湯を使っている感覚だった。 「緋朝?」 「うん、あ、いや、何もない」 俺たちは、二階の長い廊下を歩き、2人で眠る為のダブルベッドの部屋に来た。 いつも2人で眠っていたけれど、 何度もここで眠っていたけれど、 俺たちはやましい事はした事がない。 でもだ。 俺たちは今、付き合ってるって事でいいんだよな? そう思うけれど、綺麗で壊れてしまいそうにも見える彼女を、汚すような事が、怖いとも思える。 結局、その日も何もなく過ぎてゆき、次の日には普通に仕事へ向かう。 また夜には水夜の待つ館へ戻り、俺たちは前日と同じようにダブルベッドで眠った。
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