街に住む野獣

12/20
前へ
/360ページ
次へ
その日。 獣への緊張感を忘れていた。 灯りを消して、彼女は俺に「おやすみなさい」と小さく言った。 「水夜…」 俺は彼女に手を伸ばし、キスをした。 彼女とキスをしたのは初めてではない。 だけど、その先へ進もうとしたのは初めてだった。 彼女も抵抗もしない。 ここは勿論誰も来ない。 誰もいない。 だけど、水夜が窓の方を向いた。 あぁ、女性だもんな、窓のカーテンを閉めれば良かったと思った時だった。 窓から、月のほのかな明るさが、入って来ている。 そこに、人影が出来ていた。 それは、俺が夢で見た、少年だった。 月光の逆光で、影しか分からなかったけれど、グラグラの首や、やたらと長い右腕…子供と思われる小さな体。 そこにいた。 「お、俺が夢で見た男の子だっ…」 俺の体が、一瞬にして、恐怖と緊張で固まった。 水夜は、ゆっくりと上半身を起こすと、その子供がここへ迷子になって来たかのように、優しく話しかけた。 「……あなた、だぁれ?どうやってここへ来たの?」
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加