街に住む野獣

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「ねぇ、僕?怖がらなくていいからね。私達はあなたを助けたいの。分かるかな」 少年の所まで、あと5歩、4歩… 水夜は、優しく丁寧に話しながら、ゆっくりと近付く。 俺は、もしこの少年が水夜に飛びかかってでも来たら、彼女を後ろに引っ張るつもりで、片手を水夜の背中に添えた。 少年の、赤黒い血を垂らす唇が、小刻みに動いている。 目は俺たちを見ていたが、瞳は灰色に濁り、乾いている。 まるで、ゾンビだ。 水夜がいなければ、俺は絶対真っ先に逃げ出していただろう。 「ねぇ、お母さんはどこ?一緒におうちを探そう?」 水夜のその言葉に、少年の動きがぴたりと止まった。 ぐらぐらの首の、境目がずるりと下に下がる。 「おがあ…ざ、ん」 お母さん。 少年が意味のある言葉を、話した。 話が通じるのかも知れない。 あと、もう1歩。 「おがあざんっ!!おがあざんっ!!」 少年は、まるで母親を探すかのように叫んだ。 その拍子に、首が思いきり肩に倒れる。 首の裂け目から、赤黒い血が泥のように垂れた。 俺は、少年の大声に驚き、水夜を俺の方に引き寄せる。 その時だった。 俺たちと少年の間に、空気が飛び込んできた。 空気、という表現はおかしいが、俺たちの周りとは明らか違う、何かが入ってきたのだ。 俺は、何かいる…空気がいる、とは感じたが何も見えない。 そこだけ、別の空気の塊がある、そんな違和感だけ。 でも、水夜は何か見つめていた。
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