小さな約束、大きな約束

6/36
前へ
/360ページ
次へ
水夜は小袋に入れた緑霊香を撒きながら、近づく霧を一つずつ視ている。 多分、顔を確かめているんだ。 俺たちを襲ってくるヤツがいれば、水夜は容赦なく、それを吸い込んだ。 「もう少し向こうへ行きましょうか」 「あぁ、うん」 どの辺に俺たちがいるのか分からないが、懐中電灯で照らしながら、ゆっくり辺りを歩き回る。 その時だった。 「うわっ!」 「緋朝!?」 一歩踏み出した地面が、かなり柔らかくなっていて、俺の足はズッポリとハマってしまったのだ。 泥だ。 枯れ葉で埋まった泥に突っ込んでしまった。 「なんだ!?ここ」 単なる水たまりかと思ったら、この泥は深さがある。 片足を抜こうと思っても、なかなか抜けない。 必死に這い上がろうとしても、木の根が引っかかるし、泥が足場をなくし、俺はもがく。 膝まで浸かっていたのが、気がついたら骨盤の当たりまで埋まっている。 「捕まって!」 水夜が手を出して、俺の手を掴む。 が、俺の両足首を、何かが掴んだ。 寒気が、駆け上がって一気に体が冷える。 「水夜、離れろ」 「えっ!?」 水夜に状況を説明している暇は無かった。 俺は一気に泥の中に引き込まれた。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加