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水夜は小袋に入れた緑霊香を撒きながら、近づく霧を一つずつ視ている。
多分、顔を確かめているんだ。
俺たちを襲ってくるヤツがいれば、水夜は容赦なく、それを吸い込んだ。
「もう少し向こうへ行きましょうか」
「あぁ、うん」
どの辺に俺たちがいるのか分からないが、懐中電灯で照らしながら、ゆっくり辺りを歩き回る。
その時だった。
「うわっ!」
「緋朝!?」
一歩踏み出した地面が、かなり柔らかくなっていて、俺の足はズッポリとハマってしまったのだ。
泥だ。
枯れ葉で埋まった泥に突っ込んでしまった。
「なんだ!?ここ」
単なる水たまりかと思ったら、この泥は深さがある。
片足を抜こうと思っても、なかなか抜けない。
必死に這い上がろうとしても、木の根が引っかかるし、泥が足場をなくし、俺はもがく。
膝まで浸かっていたのが、気がついたら骨盤の当たりまで埋まっている。
「捕まって!」
水夜が手を出して、俺の手を掴む。
が、俺の両足首を、何かが掴んだ。
寒気が、駆け上がって一気に体が冷える。
「水夜、離れろ」
「えっ!?」
水夜に状況を説明している暇は無かった。
俺は一気に泥の中に引き込まれた。
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