たて子さん

10/30
前へ
/360ページ
次へ
「アイスコーヒーなんか要らないから、説明してくれよ」 俺は屋敷の中に入りながら、彼女を責め立てた。 「あの日記は、読むとその夢を見るとか、そう言うヤツなのか?なあ!」 俺はいつも案内されるソファに勝手に座ると、水夜を見上げた。 彼女は俺の顔を、いつもの様に無表情に見つめている。 そして、そして小首を傾げた。 「……落ち着いて。 やっぱりアイスコーヒーでも飲んでゆっくりしたら?」 ……そんな感じで冷静に言われて、俺よりも年上なのに、年下のか弱い美人を虐めているような気持ちになって、思わず目をそらしてしまう。 「ん、……と。分かった。」 「ちょっと待ってて、作りたてがあるの。すぐに持ってくるわね」 そして、水夜は黒のワンピースを翻して、キッチンへ歩いて行ってしまった。 俺はソファの背もたれにドッカリと倒れると、ふぅーとため息をつく。 どうも水夜のゆるいペースに流されてしまう。 ……つい、見た目のあの可愛さに許してしまう自分がいる。 情けないな、俺。 でも、どストライクなんだもん、水夜の顔は。 ………年が離れすぎていなければ。 問題は、そう。 彼女がおばあちゃんだ、という事だ。 「お待たせ。このアイスコーヒーは美味しい自信があるの。それから、今日はチョコブラウニーを焼いてみたのよ。どうぞ召し上がれ」 おばあちゃんなのに……俺の前にアイスコーヒーのグラスを出す手は、シワシワなんかじゃなく、細くて白い若者の手だ。 見上げると濃くて長い睫毛が、大きな目を縁取っていて、ホントに綺麗で可愛くて、思わず見惚れるほどだ。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加