小さな約束、大きな約束

12/36
前へ
/360ページ
次へ
再び、視界が波打ち、場面が変わる。 少年はランドセルを開けて、中のノートを取り出していた。 ランドセルのフタの裏には、大きく竹刃 宏則と書いてあり、漢字の上には、たけば ひろのりと丁寧な字で振り仮名が書かれていた。 そして、1年3組の時間割表が挟まっている。 1年生ってことは、この子は、6歳か、7歳か。 「宿題終わったら夜ご飯、食べなさいね。ここに置いとくね。お母さん、お仕事行ってくるから」 「お母さん、最近忙しいね?休まないと、体、病気になっちゃうよ?」 テーブルにノートを広げて、宏則は母親を見る。 ニコリと微笑むこの女性は、小学生の子供がいるにしては、若く見える。 いや、若い。もしかしたら、俺より若いかも知れない。 夕方から少し濃い目の化粧、派手目なワンピースを着て仕事…と言われれば、今からの行くのは水商売の仕事だと想像はつく。 宏則の言葉には答えずに、母親は彼の頭をくしゃくしゃと優しく撫でた。 「今日はスーパーのお仕事でね、お惣菜のコロッケ余ったから貰ったよ、宏則の好きなウインナーも焼いといたし、残さず食べてね!シャオファはこれね、ご飯にかつおぶし。じゃあね、行ってきます!」 ガラガラとドアが閉まり、カツカツと足音が遠ざかっていく。 シャオファは母親が置いて行ったねこまんまを、ハクハク言わせながら食べた。 宏則は、その間、宿題を真剣にやっていたけれど、 再び玄関が開く音に、母親が戻ってきたかと思い、目線をあげた。 「お母さん?どうしたの?忘れ物?」 しかし、入ってきたのは見知らぬ男性だった。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加