小さな約束、大きな約束

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「そうだったのね。宏則くんの霊を見たとき、酷い状態だったもの。シャオファも…姿を変えて、宏則くんを守るために必死なのね。犯人は本当に(むご)いことを…」 「あんなヤツ、シャオファに殺されて当然だった。でも、それでも、宏則も、それに、シャオファも、宏則の母親だって帰っては来ない…!」 「緋朝…」 俺にとって、この事件はショックでしかなかった。 昔の事で、とうに終わった事なのに…… 「ねぇ、緋朝、土曜日の夜、もう一度宏則くんの家に行きましょう、宏則くんの所にお母さんを連れて行くのはどうかしら?」 「え…」 *** シトシトと雨が降っていた土曜日。 昼過ぎになっても止む気配はなく、館の外の木々も葉の先から滴を垂らしていた。 体の調子は、すっかり良くなっていた。 が、精神的にはなんだかまだ調子はよくない。 とにかく、テンションが上がらない。 部屋の窓から見るグレーの景色は、まるで自分の気持ちをあらわしている様に思えた。 コンコンとノックする音が聞こえる。 「緋朝」 水夜がトレーを持って中に入ってきた。 彼女はそれをテーブルに置く。 トレーには、薄いチョコと、それから紅茶、小瓶が乗っている。 「このチョコは苦いけど、美味しいのよ、お酒に合うの。だから、ブランデーをいれた紅茶なんてどう?」 水夜は小瓶を振った。高級そうなブランデーだ。 「うん、頂くよ」
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