小さな約束、大きな約束

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「来た…」 水夜の言葉に我に返る。 白いモヤが、水夜の周りに集まっていた。 俺に見えるくらいに人の形をしているものもあれば、煙にしか見えないモノもあった。 だけど、美和子さんは違った。 俺にもハッキリと生きている人に見えた。 例の畳のシミから女性がフラフラと這い出してきて、四つん這いのまま、しばらくその場で動かない。 彼女を最後に見た時より酷い状態の姿だった。 ガリガリの腕と足、酷く傷んだ赤茶けたボブカットの髪を、ボサボサに垂らしていた。 そして、ゆっくりと顔を上げる。 「……」 目は落ち窪み、痩せこけ、皮膚もシワシワだ。 若くて綺麗だった美和子さんは、まるで老婆のようで、それだけ心身共に疲労していたらんだと思う。 ヨレたTシャツと裾が綻んでボロボロのジーンズ。 宏則を心配する余り、着るものもどうでも良かったのかも知れない。 「美和子さん」 水夜が声をかけても、彼女は顔を動かすこともなく、(くう)を見つめている。 「宏則くんに会いに行きましょう」 その言葉が届いたのか、ぼんやりした目がこちらを向いた。 乾いた瞳が俺たちを見ている。 「あなたの息子よ、宏則くんに会いたいでしょう?」 「ひろ、のり?」 俺と水夜は、力強く頷く。 「宏則はどこ?……私の宏則」 フラフラと四つん這いのまま、俺たちに片手を突き出し美和子さんは、宏則の名前を呼んだ。 「えぇ、えぇ、美和子さん、宏則くんは池の近くの山の中にいるわ。一緒に行くのよ、気をしっかり取り戻して」 美和子さんは、しばらく宏則の名前を呼んでいたが、俺たちの言葉は耳を傾けるようになり、少しすると冷静に話を聞いてくれ、目に意識があるように感じた。 「次は、あの山に3人で飛ぶわ、捕まって」 水夜は、美和子さんと俺に手を添えると、目を瞑り、意識をあの山へ飛ばした。
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